綾辻行人「暗黒館の殺人」

暗黒館の殺人 (上) (講談社ノベルス)

暗黒館の殺人 (上) (講談社ノベルス)

九州の山深く、下界から隔絶された湖の小島に建つ異形の館−−暗黒館。光沢のない黒一色に塗られたこの浦登家の屋敷を、当主の息子・玄児に招かれて訪れた学生・中也は、<ダリアの日>の奇妙な宴に参加する。その席上、怪しげな料理を饗された中也の身には何が? 続発する殺人事件の“無意味の意味”とは……?

シリーズ最大・最深・最驚の「館」、ここに落成!

暗黒館の殺人 (下) (講談社ノベルス)

暗黒館の殺人 (下) (講談社ノベルス)

十八年前に暗黒館で起こった殺人と不可思議な人間消失の謎を追ううち、遂に玄児の口から語られる<ダリアの宴>の真実、そして恐るべき浦登家の秘密……。いつ果てるとも知れぬ嵐の中、犯人の狂気はさらなる犠牲者を求め、物語は悲しくも凄絶な破局へと突き進む!

構想から完成まで、八年の歳月を費やした比類なき巨大建築。ミステリ作家・綾辻行人の全てがここに結実!

前エントリの戒めも空しく上下巻合わせて1300ページにも及ぶ物語を、先が気になって気になって3日間で読んでしまった(暇人ゆえの暴挙だ)。「館シリーズ」の最新刊ということで、もちろん期待して読んだけれども、これまでの「館シリーズ」とは違うように感じる。これまでは「館」が主人公だったけれども、本作の「館」はこの物語を書く上での装置にすぎず(もちろん重要な脇役ではあったけれども)、「浦登家の狂信」が主人公だったように感じる。また、これまでの作品では最後にトリックが巧妙に仕組まれていて「ヤラレタ!」と思ったけれども、本作品はトリック的には地味に感じた。
自分は「館シリーズ」とその一環と位置づけられる「霧越邸殺人事件」しか綾辻作品は読んでいないけれども、本作は「霧越邸殺人事件」に近くトリック云々よりも、綾辻センセの建物という装置を使って創りだしたひとつのuniqueな世界を味わうべき作品だと思う。
本の重量はあっても、いつもの「館シリーズ」と思って読み始めたのに、内容的にも重かったよ……。でも、綾辻センセのあとがきに、

「館」シリーズはまだ続きます。(中略)もう少し軽やかに、(〜略〜)「館」を訪ねてまわりたいものだと考えております。

とあって、救われたー。まだ続くんだ!ということと、それ(ら)がもう少し軽いということに。本作はいずれまた読んでその世界を味わうとして、次回作は「ヤラレタ!」を感じさせるものに出会えたらなと思います。*1

しかし、この本を読み進めるのに、何度国語辞典を引いただろう……。
以下、ネタバレ(と言っても具体的ではないけれど)を含む感想なので隠します。

上記で、「トリックは地味」と表現したけれど、そう感じたのは、トリックだけにとどまらずこの猟奇的な世界すべてについて、これまでの「館シリーズ」及び(自分は未読であるけれどおそらく)他作品で綾辻センセが書いてきたものをすべての要素を詰め込んで再構築したのがこの作品だ、という気が本作を読んでいるうちにしてきたからだと思う。「ミステリ作家・綾辻行人の全て」とはそういうことかなーと勝手に解釈した(笑)。
しかし、本作を読み終わったら「囁きシリーズ」「殺人鬼シリーズ」も読むつもりだったけれど、とりあえず今は止めておこうかなーと思った次第。ホント、「ホラー」とか「スプラッタ」には弱い自分を再確認しましたよ、本作。

ちなみに、「館シリーズ」では今のところ、「時計館の殺人」が一番面白かったです(こわかったけど)。

*1:しかし、前作「黒猫館〜」から12年経ってからの本作。次回作に会えるのはいつのことなんだろ?